農薬は毒なのか、薬なのか。

皆さんこんにちは。

今回は皆さんも良く耳にする「農薬」について少し詳しく解説していきます。

ざっくりと内容を説明すると「人間の薬と一緒だよ。用法用量を正しく使えば薬だし、間違えれば毒になるよ。」といった話になります。昔は今から考えると危険な残留するものもありましたし、現在も古いタイプの農薬が販売されいることもありますので、正しい知識を知り、正しく使うことが大切です。しっかり学べば決して怖いものではないことがわかると思います。

それでは詳しく解説していきます。

農薬にはどんなものがあるのか

除草剤、殺虫剤、殺菌剤、殺鼠剤、ホルモン剤、撹乱剤などなど現在は様々な種類の農薬が販売されており、この中でもさらに細かく細分化されていきます。

除草剤

雑草などの植物を枯らすための薬です。植物を枯らすなんて、聞いただけでも怖い感じがしますね。

代表的なところでは「ラウンドアップ」「ネコソギ」などが有名ですので取り上げて解説していきます。

ラウンドアップは葉や茎に直接かけることで植物に吸収されて枯らす薬剤です。アミノ酸系で土壌を微生物によって水や炭酸ガスなどに分解されていきます。根っこまで吸収されるのに時間がかかるため、散布した後に刈ってしまったりすると効果が発揮されずにすぐに生えてくることもあります。

ネコソギは土壌に薬剤成分を吸収させるタイプの薬剤です。植物の光合成を阻害するため、動物などに与える影響は極めて少ないと言えます。

この2つはどちらも「普通物相当」という分類がされており、危険が少ないと認められています。どう少ないかというとLD50値というのをご存知でしょうか。

LD 50値とは簡単に言うとその成分を「これだけの量摂取したら死んでしまう危険があるよ!」という数値のことです。

例えば、カフェインは体重1キロに対して130mgとなっていて、体重60キロの人は7.8kg摂取すると致死量となる計算です。コーヒー1杯に含まれるカフェインの量は約80〜90gですので、86杯〜97杯をトイレを我慢して7時間以内に飲めれば、致死量となります。まぁ普通にコーヒーを飲んでいる分には害はなさそうですが、そんなカフェインもLD50の基準では「劇物」となります。

体重1キロに対して300mg以上からようやく「普通物相当」になります。これだけ見てもだいぶ安心できたのでは無いでしょうか?

もちろん、説明書に従って用法用量を守ることが大前提ですし、作物を作る畑にわざわざ撒く必要はありません。(どうせ耕すし。。。)

殺虫剤

なんとなく一番毒のイメージが強い殺虫剤ですが、どんなものがあるのでしょうか。

代表的なのは除虫菊の成分を抽出したピレスロイド系や有機リン系、カーバメイト系などで虫の神経伝達を阻害するものです。体から排出されるのが早く、虫の小さな体に効く量ですので、虫よりも体の大きい動物への害は少ないとされています。

他には脱皮阻害剤など虫特有の脱皮を出来なくして駆除するものもあります。

最近話題で危険視されているのはネオニコチノイド系の農薬です。タバコのニコチンを改良して作られたもので、他の殺虫成分と比べると残留性が高いため、人体への影響が心配されています。ネオニコチノイド系の商品を見てみると個人的には昔からある古い農薬もしくは野菜などの食物ではなく花などの鑑賞物の農薬だなぁと言う印象です。LD50の観点から見ても普通物相当ではあるのですが半減期(体の中の薬物成分が半減する期間)が長いことが不安要素です。

もう1つは有機フッ素化合物でこちらも残留性が高く、人体への影響が心配されています。ゴキブリ退治などに効果的とされているのですが、発癌性があるため現在では使用禁止となっており、もちろん日本で農薬として使われることはありません。

余談ですがフッ素は問題視されることが多いです。一口にフッ素と言ってもフッ素は原子なので成分で言うとフッ化ナトリウムとして歯磨き粉などに含まれていますが、こちらは排出が早く約3時間ほどで半減し、LD 50の観点から見ても5000mgと安全です。心配される方が多い「骨フッ素症」などは飲み水に慢性的に高濃度でも無い限りは問題ないと言えます。水道水のフッ化物量は世界基準(WHO)が1.5ppm以下なのに対して日本は0.8ppm以下となっていて安心ですね。

いかがでしょうか?ちゃんと知っていれば安心して殺虫剤も選べるのでは無いでしょうか?知らないと怖くなるのは当然ですね。

殺菌剤

高温多湿な日本ではどうしても必要な場面が出てくる殺菌剤です。

主にカビ、ウイルス、バクテリアなどに対して散布します。予防として撒くものや治療として撒くものもあります。

例えば梅雨の時期はカビが予想されるのであらかじめ予防で散布します。

虫が菌を媒介することも多々ありますので、殺虫剤と併用して撒く場合もあります。殺虫剤にも言えることですが、同じ系統の薬品ばかり使うと虫や菌に抗体ができてしまうため、数種類の薬品をローテーションで使うことになっています。

殺鼠剤

あまり聞きなれない農薬ですが、文字通りネズミ用の薬です。虫よりも体の大きな、しかも哺乳類を駆除するのですから当然毒性・危険性は跳ね上がります。そんなもの使わなければいい!罠を掛ければいい!というのは私たちの生活が清潔で恵まれているからこそ言えることでしょう。

ネズミと人類の戦いの歴史はとても深く、人間が狩りをして定住を始めた頃からの付き合いです。貯蔵をする私たちとそれを食い散らかし鼠咬症などの厄介な病気を引き起こします。ネズミ返しなどの建築や、猫や猛禽類を飼育するなど、ネズミ対する人間の工夫は数え切れません。

そんな涙ぐましい努力の結果、現在家ではネズミの被害はほとんど出ることはなくなりましたが、芋もなどの野菜を倉庫で貯蔵したりする農家さんたちにとっては現在でもネズミ被害は死活問題なわけです。もちろん薬剤を使わないに越したことはありませんが、せっかくなので軽く紹介します。

殺鼠剤の中には何度も食べさせることでじわじわと駆除する蓄積タイプの毒と一撃で仕留めることができる猛毒があります。当然一撃タイプの方が危険です。どうしても使用しなくてはならない時は、どちらもお子さんやペットが誤飲しないように細心の注意を払って使用してください。

ホルモン剤

あまり聞きなれないかもしれませんが、意外に身近な存在です。果実は受粉し雌しべの子房が肥大化したものです。種を守るため、種を遠くに運ぶため(鳥や動物に食べてもらい種を運ぶ)に実をつけるわけですが、ホルモン剤は受粉したと勘違いさせる薬です。トマトの実付きをよくするトマトトーンや種無しブドウを作るためのジベレリンが有名です。

ジベレリン処理をしてから果実が成長し完熟するまでにはかなりの日数がかかるため、それまでに成分は分解されますし、ジベレリン自体がそもそも植物の成長ホルモンですので、基準をしっかり守って使用していればまず安全と言えます。

一方種無しスイカなどは3倍体と言われるもので、3倍体の種を作るために薬品を使用していますが、3倍体は生殖機能を持たないためそのままでも種なしスイカが出来ます。

撹乱剤

虫の繁殖を防ぐための薬品で、雌の出すフェロモンに近い成分を出すことで交尾の確率を減らして繁殖を防ぐものです。植物などに散布するのではなく、ぶら下げておくだけで効果を発揮するので安全ですが、即効性は低く、特定の害虫にしか効果を発揮しないというデメリットもあります。

続いて農薬の正しい使い方についてです。

もちろん各種農薬の説明書をよく読み、用法容量を守り、正しく散布することが大前提となりますが、さらに様々な基準がありますのでご紹介いたします。

GAP(Good Agricultural Practices)食品の安全性と環境保全、労働安全等の確保する取り組みを指し、日本ではJGAPとして地域でも独自のGAP認証を進めている地域もあります(東京都GAPなど)

前述の通りGAPは農業に関する幅広い取り組みではありますが、今回は農薬について紹介していきます。

農薬を正しく使う 用法容量を守り、正しい服装で散布すること、散布記録をつけること。

農薬の管理 鍵をかけて保管すること、原液の液だれ等が付かないようバットに入れるなど。

収穫・出荷調整なども厳しく動線を分け、果物は一度でも地面につけたら出荷できません。あげればキリがないような様々な基準が設けられています。

それらの基準を審査員が判定し、認証を受けることでGAP認証を受けることができます。東京オリンピックの際には認証野菜のみが選手村に野菜を卸せるようになることから認知度がさらに広がることになりました。

特別栽培 減農薬栽培 農薬を50%以上削減した野菜 減化学肥料 化学肥料を50%以上削減した野菜
 無農薬栽培 栽培期間中の農薬不使用 無化学肥料 化学肥料の不使用 などがあげられます。農林水産省のガイドラインに従ったものとなっておりますが、認証制度が義務付けられていないため、信憑性にかける場合があります。各自治体での認証も広まっていますので、そちらにも注目して興味のある方はその認証がどんな基準で認証しているのかを確認すれば安心ですね。

有機JAS この認証を受けずに「有機野菜」などの表示をすると犯罪に当たりますのでご注意ください。

有機栽培とは農薬のみならず、化学肥料も一切つかわずに育てる方法です。オーガニックとも言われます。とても自然で魅力的に感じますよね。しかしながら現代の野菜は何百年にも渡り、人々の品種改良によって、より大きく、より甘く、より沢山の実がなる野菜たちを栽培しています。野生の原生植物とは違い、より多くの栄養が必要になることは想像できるかと思います。そのため、現実的に有機栽培ができる農作物は限定的で芋類やタケノコ、ブルーベリーなどが一般的です。一部高級品として一般的な野菜たちも有機認証を受けていますが、大規模な栽培地でそれを行うには別の土地から有機物を大量に取り寄せて栽培をし、大人数での管理作業が必要になります。あくまでも高級品で全ての人々の食糧を賄うことは不可能です。

認定も問題があり、例えば有機肥料としても牛糞には寝床の農薬で殺菌した敷き藁も含まれてあったりと有機物の基準も定かでないなど現段階では不明瞭な部分もあります。有機JASがあやふやなのは有機肥料の特性によるものだと言えます。化学肥料とは違い、物によって、場所によって、時期によって、様々な変化が起きてしまうため明確な量や基準を設けることが非常に難しいことが考えられます。

必要のない農薬や肥料を入れるべきではありませんし、表記の混乱を避けて手をかけた野菜をブランディングするためにも決して悪いことではありませんので、よく理解した上で購入し、有機野菜じゃないとダメ!とあまり神経質になりすぎないことが大切です。

化学肥料は危険なの?

ここまでご覧になって化学肥料も危険なのかと感じた方もいるかと思います。そもそも化学肥料とは植物が吸収しやすい「窒素・リン酸・カリウム」などの成分を主としたもので、原料はリン鉱石など(動物の死骸やフンの化石)だったりします。カーボンニュートラル的な考えからすると、燃料を使って生産するので、超おすすめ!とは言えませんが、燃料を使って有機肥料を運んでくるのも・・・。化学肥料のおかげで人口がここまで増えたといっても過言ではありません。

では化学肥料の何が問題なのか、よく言われるのが砂漠化などがあげられます。有機物を入れずに農薬を使い、化学肥料ばかりで育てたら微生物たちは食べ物がなく、土はやがて砂に変わります。

例えるなら、元気がない時は風邪薬や頭痛薬を飲んで、普段は3食サプリメント
有機栽培は普段から精進料理で調味料は塩のみ、体調が悪くて漢方のみで治療をする

ちょっと極端ですよね。どちらもメリットデメリットがありますので、バランスよく利用することが大切です。有機物もしっかり入れて、足りない栄養を補って、状況に合わせて薬を使う。

人間と同じですね。

そして何よりも大切なのは「美味しいか」ではありませんか?

こうあるべき。ではなくより美味しく。人に感動を与えるような野菜たち。そんなこだわりを持って作っている人の野菜はもちろん無駄な農薬は使わない工夫をしています。何より信頼できるのではないでしょうか?

いかがでしたでしょうか。農薬について解説しましたが、まだまだここでは書ききれない部分も沢山ありますが少しでも皆さんの役に立てば嬉しいです。

AUSTRI制作担当

ふー

プロフィール

役目を終えた樹木たちに新たな活躍の場を。という想いの元、カトラリー・調理器具を中心に様々な木工品を提案しています。 10年程、農業全般に携わってきたため、もっと多くの人に、自然に触れてほしい、身近に感じて欲しいと思い、家庭菜園やお庭の管理など幅広い生活の知恵を発信していきます。